誰も読書を楽しめる世界へ 「デイジー(DAISY)図書」の活用 野村 美佐子 日本DAISY コンソーシアム事務局長 nomura@atdo.jp はじめに • 国連障害者権利条約(UN Convention on the Rights of Persons with Disabilities)を基礎とする差別の解消の推進に関する法律,そして,視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律(読書バリアフリー法)により,障害の有無にかかわらず,等しく社会参加,および文化を享受することが改めて法的に保障された • 上記のアプローチで、持続可能な開発目標(SDGs)の理念である「誰一人取り残さない」読書バリアフリーの実現に向けた戦略の一つとしてデイジー(DAISY)をご紹介します 講義の内容 1.日本DAISYコンソーシアムについて 2.マラケシュ条約→読書バリアフリー法 3.デイジーとは 4.デイジー図書の特長 5. デイジー図書の有効性 6. DAISY教科書とは  7. 当事者によるデイジー教科書体験 8.デイジー図書はどこで手に入るか 9.再生ツールの紹介  10.デイジーの現状と可能性   1.日本DAISYコンソーシアム(1)   目的 日本DAISYコンソーシアムは、国際的なDAISYコンソーシアムの正会員として、印刷物を読むことが困難(プリントディサビリティ*)な人を含むすべての人々が、平等に情報へアクセスできる社会の実現を目指している https://www.japandaisy.org/ *プリント・ディスアビリティ(Print Disabilities)とは、ディスレクシア、視覚障害、肢体不自由、そして高齢者等が直面する加齢に伴う様々な理由で印刷物(紙の書籍や資料など)を読むことが困難な状態 1.日本DAISYコンソーシアム(2)  背景 • DAISYコンソーシアムは1996年、日本、スウェーデン、イギリス、スイス、オランダ、スペインの6か国を中心に結成され、アナログ録音図書からデジタル録音図書への移行を主導した。現在では約50か国以上が参加している • DAISYコンソーシアムは、国際規格であるDAISY(Digital Accessible Information System)の開発・維持・普及を担い、特に発展途上国における活用促進に注力 • 日本は、 DAISYコンソーシアムの開発、普及を支え、参加するため、また日本からの要望を開発に反映するため2003年3月に日本DAISYコンソーシアムを設立した 1.日本DAISYコンソーシアム(3)   活動 • 国際DAISYコンソーシアムへの参加と連携強化 • 運営委員会・総会の開催による組織運営の透明性確保 • 講演会・セミナーの開催による普及啓発活動 • DAISYおよびEPUB、関連アクセシビリティツールに関する情報提供 • 誰もが利用可能なDAISYおよびEPUBコンテンツの公開 • EPUBアクセシビリティの普及と研究開発の推進• 災害時支援(例:  東日本大震災関連コンテンツの制作・提供) • 技術委員会による規格開発・改善活動 •「読書バリアフリー法」への対応 2.マラケシュ条約 → 読書バリアフリー法 読書バリアフリー法は、WIPOが主導して2013年に国際的に採択されたマラケシュ条約をきっかけに生まれた この条約は、視覚障害者など印刷物を利用できない人々が、点字や音声、DAISYなどのアクセシブルな図書を国境を越えて利用できるようにするものです 日本は2019年に条約を批准し、そのために読書バリアフリー法を制定した アクセシブルな書籍の国際交換のためにWIPOにアクセシブル・ブック・コンソーシアム(ABC)が創設され、グローバル・ブック・サービスを運営している 3.デイジーとは(1)  DAISYとは、Digital Accessible Information SYstemの頭文字で「アクセシブルな情報システム」と訳す。  印刷物を読むことが困難 (プリントディサアビリティ)な人々のために製作されるデジタル録音図書の国際標準規格  DAISYコンソーシアムは、IFLA(国際図書館連盟)の盲人図書館分科会(現在は、印刷物を読むことに障害がある人々のための図書館分科会)の有志により、1996年に設立され、デイジーの開発と維持を担っている  2002年DAISY3規格はアメリカの ANSI/NISO規格となる  デイジー図書は、音声デイジー、テキストデイジー、マルチメディアデイジー図書の3種類がある 3.デイジーとは(2) 再生ツールは、以下の調整が可能 ・文字の大きさ ・カラーコントラストなどの見え方 ・読み上げのスピード ・ハイライトの有無 ・点字による表示の有無 [画像:ごんぎつねのデイジー再生画面] 4.デイジー図書の特長  オープンなデジタル録音図書の国際標準規格  ハイライトされた文書を音声で読み上げる  本の構造を持つ(目次、頁、見出しによるナビゲーション)  規格に準拠して再生環境をカスタマイズできる  パソコン、タブレット、スマートフォーン、専用機器で読める  プリントディスアビリティがある人々の読むことと理解することを助ける。  文書を読むことに関して、すべての人の情報アクセスを保障するユニバーサルデザインに寄与する 5.デイジー図書の有効性 ① 対象者の視点から ② 研究者の視点から ③ 利用者の視点(保護者、先生の報告も含む) ④ 今までの活用事例から    ・マルチメディアデイジー教科書    ・知的障害者へのソーシャルスキル研修    ・読みやすい図書への活用     ・災害・緊急時の対応を学ぶマニュアルに活用    ・日本語を母語としない人への活用    ・マルチメディアデイジー+手話の可能性の検討    ・マラケシュ条約実践への貢献(外国の事例)   6.デイジー教科書とは(1) 2008年に施行された教科書バリアフリー法に基づき、日本 障害者リハリテーション協会を中心としたデイジー製作団体のネットワークにより小中学の読みの困難な児童生徒おび外国児童生徒を対象にデイジー教科書を製作・提供を行っている。現在3万人の利用者がいる(https://www.dinf.ne.jp/daisy/daisytext/)  デイジー教科書の体験:https://mpf.jsrpd.jp/ • ログイン名:10025 ・パスワード:12345678  デイジー教科書の効果的な利用 (井上賞子先生のプレゼン) https://www.youtube.com/playlist?list=PLx-miD5jltEh9SYoT03WSaLIY1d78G77I 7. 当事者によるデイジー教科書体験 ディスレクシア当事者へのインタビュー ・フルバージョン https://www.youtube.com/watch?v=zWgdPcuN8ZE&list=TLGGBFGegAjdy7gxOTA5MjAyNQ • 抜粋 https://www.youtube.com/watch?v=BAChrXcvk9w 8. デイジー図書はどこで手に入るのか 著作権法第37条により、視覚障害者など読むことに困難な者は、以下で登録をすればDAISY図書を読むことができる。  サピエ図書館 「サピエ」は、視覚障害者を始めとするプリントディサビリティがある人々に対して、さまざまな情報を点字、 音声データなどで提供するネットワーク https://www.sapie.or.jp/cgi-bin/CN1WWW  みなサーチ みなサーチは、プリントディサビリティがある人々が、利用しやすい形式の資料を探すことができるサービス(点字、DAISY、テキストデータ、大活字本、LLブック、電子書籍、バリアフリー映像資料などに関する書誌情報がある)  https://mina.ndl.go.jp/  デイジー子どもゆめ文庫 小学校の国語の教科書で推薦している自動車を中心に、デジタル図書のマルチメディアデイジーにして提供している https://yume.jsrpd.jp/ 9. 再生ツールの紹介 DAIY/EPUB再生については、専用機器および再生ソフトがある 詳細は以下のリンクを参照 https://www.atdo.jp/22  本日のデモは、無償の再生ソフトに焦点を当てます サンプル(浦河べてるの家の津波避難マニュアル )のダウンロード  https://www.atdo.jp/76  ChattyBooks https://www.sciaccess.net/jp/ChattyBooks/ https://www.sciaccess.net/download/ChattyBooks208b.zip  トリウムリーダー バージョン3.1のWindows用インストーラは、以下のリンクからダウンロード https://github.com/edrlab/thorium-reader/releases/download/v3.1.0/Thorium.Setup.3.1.0.exe [画像:浦河べてるの家の津波避難マニュアル] 10.デイジーの現状と可能性  EPUB(*)との連携 DAISY4がアクセシビリティの技術を受け入れているが、なかなかアクセシブなEPUBが製作されていない  W3CとIDPF(EPUBの使用を策定している団体)が合併(2017年) 電子書籍出版とウェブアクセシビリティの統合となる  マルチメディアデイジー教科書は、現在EPUBのフォーマットで 提供が行われている  教科書出版社によるアクセシブルなDAISYを含んでいるEPUB の活用により出版社が最初からアクセシブルな出版をすることを要望 *EPUBは、商業用電子書籍の国際標準規格として世界的に認知されている   おわりに • 文部科学省と厚生労働省が連携し、障害者やご家族に向けて、公立図書館や点字図書館で受けられるサービスや利用できる本を紹介するリーフレットを作成(https://www.mext.go.jp/a_menu/ikusei/gakusyushien/mext_01304.html) • 障害者用ではなく、誰でも使えるようなアクセシブルな図書を出版会社が出版してくれることを期待する [画像:「誰もが読書をできる社会を目指して」リーフレット表紙]